「駆けつけ隊」

「駆けつけ隊」

 スーパーに寄った帰り、福島警察署の前を通った。署の看板には「交通事故での死者一人」と書かれていた。世間が、これ以上だれもコロナで命を落とさないでほしいと祈るように日々を過ごしているなかでだ。「せめてコロナで死んでくれ方がマシやて・・・」そんな親族の無念の声が聞こえてくるようだった。そんなことをあれこれ考えていると、前の方から自転車に乗った親子が近づいてきていることに気が付いた。とたんに目の前で男の子が自転車から勢いよく転んでしまった。アッ!と声がでそうになったその瞬間、母親が「あんたなにしてんのーー!!だから言ったやろう?!ほんまに~!あぶないなぁ!」と結構な強さで怒鳴った。その場に圧倒されながらも、おそるおそる男の子の顔を窺ったら、男の子も私の顔を窺っていて1mも満たない距離でばっちりと目が合ってしまった。お互いにとてもバツが悪かった。わざと転んだわけじゃないのに怒鳴られてしまい、時が止まったような顔をしている男の子と、大事に思うがゆえに思わず叱ってしまった母親との感情の行き交いを目の当たりにし、(誰もわるくないのになあ・・・。)と、また一つ考えにふけることになってしまった。

 ———自分事と他人事の境界線はどこだろう。同情や干渉に傷つけられることもあるけれど、無関心にはもっと傷つけられる。人や環境のあれこれに敏感になりすぎると生きづらくなってしまうのは事実だけれど、それでも、鈍感に生きることの方が恐ろしいような気がする。

 ということで私は開き直っておせっかいおばさんになろうと思う。だれかの余命が一日でも長く続くことを勝手に祈ったり、「お母さんは事故してほしくなくて注意してくれてんで~」と心の中で叫んだりするような。そして同じく、鬱陶しいくらいのおせっかいを焼かれたい。 (二〇二〇年 夏)


(金春華 / 外国語学部日本語学科4年)


이로하(いろは)文集-朝鮮大学校外国語学部日本語学科-

「이로하(いろは)文集」は、朝鮮大学校外国語学部日本語学科が主宰する、朝鮮大学生による日本語創作文集です。今学年度よりブログ形式で発表することになりました。コロナ禍に見舞われた2020年度のお題は「かける」。それぞれの、さまざまな「かける」について、思いを綴ってみました。

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