「己を鼓舞せよ」
「己を鼓舞せよ」
ネットフリックスに加入した。動画コンテンツの量は半端ではない。小さな端末を一つ持っていれば、いつどこでも最新の映画やアニメを楽しむことができる。いわゆる「コロナ禍」で外出できない私にとっては最高の暇つぶし。頭から布団をかぶり、一日中アニメを見ていた。コロナだから仕方ない、みんなそんなものだろう。時間はたっぷりあるし、やる気なんてどこぞの誰かが持ってきてくれるだろう。とりあえず、「今週の総合一位」と謳われているアニメを見ることにした。この作品の原作はすべて読んだものの、アニメもかなり良くできているらしい。どれどれ。
開始五分、主人公が炭を売りに町へ降りたシーンで唐突な眠気が。うつらうつら、動画を停止するか否か、それも判断できない程度に、
「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」
それはもうめちゃくちゃに飛び起きた。その瞬間、端末は布団から転げ落ち、動画が自動的に停止された。端末の真っ黒い画面に映ったのは、だらしない自分の顔であった。
大学4年生と言えば、今後の自分の人生について、私たちの未来について話す大事な時期である。私たちは、命を懸けて守らなければならないものの尊さを知り、それを最前線で守っていく人にならなければいけないのだ。思想も教養もままならない、強くない、弱い人間はいずれ自分の人生、そして、民族の運命まで、他人に握らせることになる。そんな切迫感が私にはあっただろうか。民族の生死が他人の手のひらに渡ってしまう日はさほど遠くない。家に1人、学校にも行けず、人とつながることが難しいコロナ禍でも、その事実はただ存在し、今この時も明るい未来をむしばんでいる。
過去の私よ、
命を懸けて守りたいものに、誠実であれ。
もっと強くなろう。近道なんてない、足掻くしかない。己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ、歯を食いしばって前をむけ。
私の生活に本物の鬼は登場しない。毎日鬼に殺されるかもしれない恐怖もない。岩を切るための訓練もしなくていいし、全集中の呼吸を習得しなくても良い。だが人間のふりをした鬼は存在し、私はそれと闘うべき人なのだ。さもなければ、私も鬼になりかねない。命を懸けて守りたいものはいつ消えてもおかしくない状況にある。
今日、未来の為に何を出来たのだろう。考えを巡らせ今日も生きていかなきゃ。コロナだからなんだと小さく呟き、落ちた端末を拾い上げ、ロック画面を開いた。そこには懸命に戦う主人公の姿があった。
「よもや、よもやだ。」
私は大きく伸びをし、ベットからの一歩を踏み出した。
(辛秀玲 / 外国語学部日本語学科4年)
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