「×&×」
「×&×」
吾輩は×である。バツと読む。朝鮮大学校否定学部の学生である。学部の使命は全てのものを否定すること、すなわち他人のものを受け入れないのである。
吾輩は×である。カケルと読む。朝鮮大学校乗法学部の学生である。学部の使命は全てのものを倍加すること、すなわちどんな人たちとも手を取り合うのである。
「今日こそ決めてやる。×は吾輩の『バツ』、すなわち否定を意味する記号になるのだ!乗法学部はすっこめ!」
「バツ」は強気に罵声を放つ。すると「カケル」は微笑んで言った。
「いやいやいや、お言葉だけども、その意見は素直に受け取れないな。ここは仲良く『倍加』と『否定』の両方の意味を持つ『×』ということにしよう。それなら鬼に金棒。今後の大学生活もより一層いいものにできるだろう。」
いきなりの訳のわからない言い争いが繰り広げられていて皆さん混乱していることでしょう。のんびりその言い争いを眺める私は、そうだな~、「天の声」とでも名乗っておこうか。
なぜこうなったか、私、天の声が簡単に説明しよう!
2019年冬に朝鮮大学校に突如現れた「×」という記号。読み方がないこの記号に大学的に名前を付けることになったのだ。8つの学部の中から選ばれたのが否定学部と乗法学部であったのだ。否定学部委員長の「バツ」は自分たちだけのものにしようと主張するのに対し、乗法学部委員長の「カケル」は平和的に2人のものにしようという主張を2か月間もしているのであった。
3日後には朝鮮大学校の学長がこの記号にふさわしい学部を選ぶ集会がある。
「お前は肯定学部の委員長『マル』を知っているだろう。我らの学部の最大の好敵手(ライバル)である。肯定学部はすでに『○』という記号を授けられ、委員長の『マル』には栄誉委員長という称号が与えられた。吾輩は決してその結果を認められない。いやなんとしてもこの記号だけは吾輩の学部のものにしてあいつらに追いつくのだ。」
その話を聞いて「カケル」も言った。
「たしかに除法学部の委員長『ワル』、減法学部の委員長『マイナス』、加法学部の委員長『プラス』にもすでに各々『÷』『-』『+』という記号を付けられて栄誉委員長になっていたな。そのほかの学部もたしかにそうだな…なるほどなるほど、君は栄誉委員長になりたいのか。しかし争いはよくないぞ。」
「違う。ただ肯定学部にだけは負けたくないだけだ!もうこれ以上差をつけるわけにはいかない…。なんとしても我々のものにする。」
なぜそこまで肯定学部に勝つことにこだわるのか…「カケル」には理解できなかった。なんとかして平和的解決をしようと様々な説得を試みる。しかし「バツ」の意見が変わることがないまま時間だけが流れた。
ついに集会の日が訪れた。
「バツ」と「カケル」は両学部の代表として講堂へ向かった。大学中に不気味な静けさが漂っていた。
(ドクッドクッ、ドクドクッ、ドクドク…)
両者の歩幅は胸の鼓動と共に早まった。
ついに集会が始まった。学長が教壇に立ち胸ポケットから封筒を取り出し、紙を広げた。
両方固唾を飲む。真剣な3つの眼差しが学長を見つめる。
時間の流れが止まったかのように辺りに静けさが漂う中、学長の口が動いた。
「これより×の記号を与える学部を発表する。その学部は…」
(ドクドクドクドク…)
緊張で私は今にも吐きそうになってしまった。両者の懇願の眼差しが学長に向けられたその時…
「両方に与えることとする!」
ん~?ん!?聞き間違えだろうか。両方?と言ったのか?私は「バツ」と「カケル」の方を振り返る。
「カケル」は安堵の表情の反面、「バツ」は絶望的な顔をしていた。
学長の発言が終わると否定学部と乗法学部に各々「×」の記号が与えられ、両者に栄誉委員長の称号が与えられた。
集会が終わり「カケル」が「バツ」の方に歩み寄る。あんなに「バツ」が望んだ「×」という記号も、栄誉委員長の称号も手に入れたというのに「バツ」は浮かない顔をしていた。
そんな姿を見た否定学部の学生たちが「バツ」の周りに集まってきた。
「委員長、もう大丈夫です!我々の学部のために委員長は毎日必死に我々を率いてきてくれました!その頑張りがあって記号を与えられました!本当にありがとうございます!」
講堂内は拍手と歓声であふれていた。ぼんやりしていた「バツ」の前に「カケル」が手を差し伸べた。
「もう一人で抱え込むこともない。同じ記号を与えられた学部同士、一致団結してもっといい大学にできるように尽力を尽くそう!もちろん肯定学部にも負けないくらい、一緒に!」
「バツ」の目からは様々な感情が込み上げられた涙が流れた。
大学中に活気が戻った。集会の時の静けさがまるで嘘のようだ。
結果的には「バツ」の主張は通らなかったが、今まで他人を否定してきた「バツ」率いる否定学部は変わった。
大学内のありとあらゆる悪の要素を否定し朝鮮大学校をより良くするため貢献していたのだった。
それからまた月日が流れ2020年春。
たくさんの新入生たちが朝鮮大学校に入学した。
こうして8つの学部は各々の使命を全うすべく競争を繰り広げていた。否定学部と乗法学部は「×」の記号を掲げ今も必死に大学生活を過ごしているのであった。
(高貞任/外国語学部日本語学科4年)
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